小泉首相の「郵政民営化」を考える-part2
首相官邸のHPの「だから、いま民営化」という頁で、小泉首相は、
「郵政民営化が小泉内閣の進める改革の“本丸”であるというのはなぜでしょうか」と問いかけ、自ら次の4点を上げている。
(1)郵政民営化が実現すれば、350兆円もの膨大な資金が官でなく民間で有効に活用されるようになります。
(2)全国に津々浦々に存在する郵便局のネットワークは、私たちにとって貴重な資産です。民営化すれば、民間の知恵と工夫で新しい事業を始めることが可能になります。
(3)郵政公社には40万人の公務員がいます。郵政民営化が実現すれば、国家公務員全体の約3割をも占める郵政職員が民間人になります。
(4)民営化され税金を払うようになれば国や地方の財政に貢献するようになります。また、政府が保有する株式が売却されれば、これも国庫を潤し財政再建にも貢献します。将来増税の必要が生じても、増税の幅は小さなものになるでしょう。
そして、次のように結んでいる。
『「民間にできることは民間に、行財政改革を断行しろ」「公務員を減らせ」と言いながら郵政民営化に反対というのは、手足をしばって泳げというようなものだと思います。
誰でも現状を変えることには抵抗感があるものですが、国民全体の立場に立って、郵政民営化に向き合っていただきたいと思います』と。
私は、元々、郵政民営化論者なので、上記の内容に異論はない。
ところで、法案の骨格修正をめぐり「交渉は終わった。ほぼ満額回答だ」という党5役の発言を捉えて、「骨抜き」とか「大山鳴動して鼠一匹」とかの批判があるが、私はそうは思わない。
党5役が要求したのは、〈1〉資本関係の維持〈2〉郵貯銀行、保険会社と窓口ネットワーク会社との代理店契約の延長〈3〉郵政民営化の状況を検証する委員会の委員の人事を国会同意人事とすること、の3点である。
郵政民営化、自民が政府回答を協議…さらに譲歩求める
2005年4月25日(月)Yomiuri On-Line
このうち、郵貯銀行、保険会社と窓口ネットワーク会社との「資本関係の維持」を問題視する向きが多い。郵政民営化の基本方針が指摘する「金融システムの安定性の観点から、他事業における経営上の困難が金融部門に波及しないようにするなど、事業間のリスク遮断を徹底する」という点に問題を残すからであろう。
しかし、乱暴な言い方をすれば、総てが仔細なことなのである。要は、いったん民営化すれば、後は資本の論理が働き、より効率的でリスクの少ない方向に進まざるを得なくなる。今までのような「親方日の丸」的な発想と行動では、たちまち立ち行かなくなるからである。
私は、むしろ、金融や小口輸送の分野で強力なガリバーが出現することの方を心配する。JRやNTTのような地域分割が将来的に必要になるのではないか。郵政民営化の基本方針で謳われている「民間企業と競争条件を対等にする」ことを、どう担保するかである。この点については、「窓口ネットワーク会社、郵便貯金会社及び郵便保険会社を地域分割するか否かについては、新会社の経営陣の判断に委ねることにする」として民営化後に下駄を預けている。
「骨抜き」かどうかはともかく、今後とも新会社の動向を見守っていく必要はありそうだ。
関連記事1:郵政民営化と自民党の崩壊
関連記事2:小泉首相の「郵政民営化」を考える
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コメント
TBありがとうございます。
> 金融や小口輸送の分野で強力なガリバーが出現することの方を心配する。
> JRやNTTのような地域分割が将来的に必要になるのではないか。
> 新会社の経営陣の判断に委ねることにする」として民営化後に下駄を預けている。
> 今後とも新会社の動向を見守っていく必要はありそうだ。
コメントに強く納得しました。とても勉強になりました。ありがとうございました。
投稿: azatsu0422 | 2005/04/26 12:25
TBありがとうございます
>要は、いったん民営化すれば、後は資本の論理が働き、
同感ですね、民営化さえ出来れば自ずと道が開いていくでしょうし
それはモンスター企業ですから、思惑や予想はするだけ無駄かも?(笑)
投稿: 1306th sense | 2005/04/26 23:52
ホームページ上の私の本業、国字・漢字のほうでは、トラックバックいただいたことがありますが、楽天のほんの息抜きのサイトでいただけるとは恐縮です。
リンクしたサイトは、各種検索エンジンで、「漢字 検索」と入力すると、最初に出てくるサイトです。
そちらの方面で御用の説は、いつでも書き込みしてください。
投稿: ジテンフェチ | 2005/04/27 12:31
TBありがとうございました!
素晴らしいですね。
どうも郵政民営化では、些事にこだわって、大意を解していない論議がなされおり、心配しておりました。
ぜひ、拙のエントリーで紹介させて下さい。
宜しくお願い致します。
投稿: 鮎川龍人 | 2005/04/28 21:25
azatsu0422 さんへ
>コメントに強く納得しました。とても勉強になりました。ありがとうございました。
恐縮です。民営化関連6法案が成就すれば、きっと良い方向に進むはずです。
1306th sense さんへ
>同感ですね、民営化さえ出来れば自ずと道が開いていくでしょうし
コメントありがとうございます。
要は、突破口を開かないとなんともなりません。
郵政改革は国鉄改革よりも奥が深く、むつかしいからです。
鮎川龍人さんへ
>大意を解していない論議がなされおり、心配しておりました。
おっしゃるとおりです。この大改革を進めるにあたって、些事にこだわってはおられません。
「民営化」が総てです。
投稿: 坂 眞 | 2005/04/28 21:54
TBありがとうございます
あまり議論されてませんが
官僚の中では株式の全面売却で
完全に売り切れるかを心配する声があるようです
中途半端な改革で終われば財投を
健全化できるかに疑問は残りますが
とりあえずはじめの一歩を踏み出したことは評価できますね
千里の道も一歩からといいますし・・・
投稿: tkns | 2005/04/30 12:39
tkns さんへ
コメントありがとうございます。
>とりあえずはじめの一歩を踏み出したことは評価できますね
千里の道も一歩からといいますし・・・
多少の妥協をしても、民営化という既成事実を作ることの方が優先する、というのが私の立場です。
それからすれば、大きな前進です。
投稿: 坂 眞 | 2005/04/30 13:01
私は民営化に反対で、立場が異なるのですが、昨日思い切ってTBさせていただきました。私のブログも訪れてしっかり読んで下さいまして、まことにありがとうございました。TBをして本当に良かったと思いました。
私も、郵貯と簡保の資金の現在の使われ方は間違っているという立場です。しかし、それは「使う側」の問題であり、「集める側」である郵政の問題ではない、という立場です。ですので、「郵政民営化を考えるpart1」のご意見には概ね賛成です。
かつては役に立った公共投資も、一通り整備が終われば(ダムや道路のように)、その予算は他の部門に転用せねばならないと思います。ところが、利権構造が生まれてしまうと転用できなくなるのが大問題です。
かつては役に立ち、今は必要性がなくなった予算の配分先に関しては、「ご苦労さまでした」と最大限の敬意を払いつつ、新しい分野(自然エネルギーなど)に転用する勇気が必要だと思います。
新しい経済循環の波を引き起こし、民間投資を引き出すためには、政府がイニシアティブを取って社会資本整備をする必要があるというのが私の立場です。
たとえば燃料電池自動車一つを走らすにしても、水素スタンドを整備するなど、政府が支援して社会資本を整備する必要があると思います。
90年代の米国の繁栄を支えたIT革命に関しても、もとはゴアの「情報スーパーハイウェイ構想」にあり、政府のイニシアティブだと思います。つまり「市場の力」ではないと思います。レーガン革命が10年遅れて90年代の米国の繁栄を生み出したという竹中氏の主張は、残念ながら「風が吹けば桶屋が儲かる」という次元のものだと思います。
郵貯によって莫大な資金が社会資本整備のために使えるという日本の制度的条件は、じつは他国に比しても有利な点だと思います。ひとたび衰退しても、新しい産業社会への移行による新しい循環の波を、市場に任せた場合より、すみやかに可能にすると思うからです。
ただし、それは「政府が利権に縛られていない」という条件の下ではじめて可能になることだと思います。本当に、問題は利権構造をどうやって打破するかですね。この点は、まったく賛成いたします。
私は、それはやはり「民主主義の力」が可能にすると思います。私のブログの4月11日のエントリー「スウェーデンのバイオガス・エネルギー」もご覧くださいますと、嬉しく存じます。
どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: 関 | 2005/05/02 05:47
遅くなりました、TBありがとうございました!
>JRやNTTのような地域分割が将来的に必要になるのではないか。
私もそう思います。対抗する民間企業も まずは民営化してもらったほうがいいと考え、
積極的に発言していないのではないかと考えています。
投稿: hiro | 2005/05/03 20:33