小康社会は夢のような話
私は、これまで中国が崩壊する可能性について言及してきた。そこで導き出した結論は、早ければ2008年の北京オリンピック後、遅くとも2010年の上海万博後には中国は深刻な危機に直面するということである。
崩壊に至る要因は、もちろん多岐にわたる。
①非効率的で赤字の国有企業と多額の不良債権をかかえる国有銀行
②経済的不平等の急速な拡大と社会システムのゆがみ
③3億5,000万人に上る不完全就労者
④共産主義イデオロギーの崩壊に伴う社会的規範の喪失と宗教的な社会倫理の欠如
⑤世襲される政治権力=「太子党」の増殖
⑥汚職の横行と蔓延する拝金主義
⑦頻発する暴動・騒乱、深刻化する治安の悪化
⑧資源的制約の顕著化と慢性化するエネルギー不足
⑨急激に進行する自然破壊と環境汚染
⑩社会的・政治的自由を求める動き
上記の負の要因は複合的なものであり、一朝一夕に解決できる問題ではない。
高度成長が負の要因に蓋(ふた)をしている。しかし逆に見れば、高度成長が負の要因をますます深化させている。つまり、負の要因と高度成長はメダルの裏表で、自転車のようにこぎ続けなければ倒れてしまうのである。
メディアも、一時のような「高成長を続ける中国」「繁栄を謳歌する中国」といった礼賛記事ばかりではなくなってきた。読売新聞は、「膨張中国」という第一面掲載のシリーズ記事で、中国の負の側面にスポットを当てている。
朝日新聞が発行するAERAも、2005年5月16日号で「08年の北京五輪、10年の上海万博までは成長は持続する、と見られているが希望的観測の域をでない」と編集委員の署名入りで書いている。
引き鉄(がね)となる最大の要因は人民元の切り上げである。米ドルと人民元の購買力平価は40%の開きがあるというのが米国議会の試算である。
市場では最低でも10%、ゆくゆくは20%以上の切り上げも避けられないという見方が強い。しかし、国務院(中央政府)の分析によると、20%では1千万人以上が失業すると
予測している。そして、このような状況に耐えられる指導者はいないと・・・
以上が、最近、日本のメディアでも語られ始めた「膨張する中国」の負の側面と、それが孕(はら)むリスクである。では、当事者の中共政府は、この事態をどう捉えているのであろうか?
残念ながら、中国当局者が自国の悲観的側面に言及した記事に触れたことがない。
唯一、政府直属・社会科学院経済研究所の張曙光研究員(66)が報告した、人民元
切り上げがもたらすリスクの分析くらいである。
参照:「人民元切り上げがもたらす恐怖」
ところが、今回、共産党の省トップ、しかも中国共産党政治局員も兼任する人物の本音が掲載された記事が報じられた。記事で語られている内容は、このエントリーで挙げた負の要因を裏付けるものである。
とりあえず全文転載するので一読してほしい。
↓
「広東省は危機的な状態」 張書記が“弱音”
進む環境汚染、治安悪化
「広東省は現在、危機的な状態にある。このままでは江蘇、浙江、山東省や上海に
追い抜かれてしまう」-。広東省の張徳江・広東省党委書記が曽蔭権香港特別行政区長官との会談で、環境汚染や治安悪化などで、「(同省が)経済的、社会的にも疲弊
している」と語っていたことが明らかになった。(相馬勝)
省運営は綱渡り
香港の中国筋によると、この会談は先月二十六日、香港の議会である立法会の59議員が広東省入りした際行われた。中国共産党政治局員も兼任する現役の省最高指導者が直面する問題を赤裸々に明らかにし、“弱音”を吐くのは極めて異例だ。
張書記は席上、「広東省は中国の経済改革の先駆的存在であり、急激な経済成長などの奇跡を達成したと思われているが、実際の広東省の運営は綱渡りの状態だ」と述べた。
さらに、「広東省では表面に表れてこない問題や危険性が山積しており、もし対応を
間違えると、われわれは江蘇、浙江、山東省や上海市に追い抜かれてしまう」との危機感を吐露。「広州を中心とした珠江デルタ経済圏は経済的に繁栄しているが、省北部は厳しい貧困状態に陥っており、まったくの未開発だ」とも述べ、その知られざる実態を明らかにした。
具体的な問題点として張書記は「急激な経済開発に伴い、耕作可能な土地が減少し、水質や大気の汚染が極度に悪化。飲食物の安全を確保できない状態<だ」と語ったという。
秩序維持は困難
そのほかの問題点として張書記は、特に治安の悪化を挙げた。「改革・開放路線によって全国的にさまざまな才能の人材が移動しており、広東省もそれらの人材を引き付けているが、同時に、多くのすりや泥棒なども集まってきており、社会的秩序を保つことが難しくなっている」と強調した。
広東省は長期的な目標として、「中流階級社会の実現」を目指しているが、張書記は「それは夢のような話だ」として、厳しい見方を示した。
しかし、今後の展望について張書記は、来年からの「第11次5カ年計画(2006~10年)」で、「インフラ整備を中心として一層の経済的発展を図りながら、教育や文化的な要素を発展させていく」との“前向き”な姿勢もみせた。特に、中山市を中心とした「学園都市構想」や省内の各都市に文化的な施設を建設していく方針も明らかにした。
そのうえで、張書記は「広東省への投資資本の70%は香港資本で、観光客も80%は香港人であるなど、香港と広東省との結びつきは強い」として、両者の一層の協力関係強化に大きな期待を示した。
(2005年10月4日 フジサンケイ ビジネスアイ)
珠江デルタ地域(広州、深セン等)は、中国経済の牽引車であり、上海と並ぶ双頭の竜とされる。そこの共産党トップが“弱音”を吐くのは、いかに事態が深刻であるかということだ。そもそも中国人は、よほどのことがない限り外に向かって弱音を吐いたりしない。
貧富の極端な格差、砂漠化の進行、水と大気の想像を絶する汚染、著しい治安の
悪化。“綱渡りの状態”というのは、まさに偽らざる心境であろう。
香港との一層の協力関係強化というが、香港にすがらなければ生きていけないとも読み替えられる。
実は、広東省が抱える問題は国家レベルで解決すべき問題なのである。しかし、過去のエントリーでもたびたび指摘してきたように、今の中国は共産党中央のコントロールが効かない状態にある。
「先に豊かになれるものから豊かになれ」という、一時的な経済格差を容認した鄧小平の「先富論」がもたらした必然的結果である。
地方主導で外資を呼び込み、低賃金の力と組み合わせて輸出を伸ばすという形の経済成長の限界が見えてきたということだ。
国土の均衡ある発展という、本来あるべき姿に戻したくても、地方が独自に(勝手に)
発展を遂げ、ここまで経済規模が拡大した今では、それは不可能に近い。
経済が失速し、共産党の権威が失墜すれば、無政府状態が生じかねない。「中流階級(小康)社会の実現、それは夢のような話だ」という言葉に、張書記の不安が凝縮されているような気がしてならない。
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コメント
はじめまして
私は個人的には期待をこめて北京でのオリンピックが中止になるのではないかと(疫病の蔓延、各地での暴動、人権問題、環境汚染、台湾恫喝、等の複合的な理由で)
それがきっかけで経済破綻し、上海万博までは持たないのでは。
なんて予想してみる。
投稿: HAL2005 | 2005/10/04 20:16
こんばんは、坂眞さん。
いつも鋭い分析、ありがとうございます。
中国の経済状態は、まさしく「綱渡り」といった所だと思います。「膨張中国」は健全に拡張してきたのではなく、その背丈以上に急激に拡張した、急性肥満のような危険性があるように思われます(心臓等の内臓が、急激な成長に耐えられるかどうか)。また、脳からの命令を体が受け付けるか、ですね(上に政策あれば、下に対策ありの社会ですが、上からの締め付けが、より利かなくなりつつありますね)。
また、私は、以前にもコメントしたかもしれませんが、高い伸び率を見せる軍事についても、多大な危険性があるように思われます。坂眞さんのご指摘がありました、東シナ海への軍艦派遣や潜水艦の領海侵犯は、胡錦涛国家主席、または温家宝首相が中国本土から不在の時期に起こったとか。また、一部将校の米国本土への核攻撃発言を見て、もしかしたら、共産党自身が、軍部を抑えきれていないのかもしれません(共産党=軍部でないですから)。
内輪の恥は、絶対に出さない中国だけに、その動向に注視していきたいと思います(東シナ海での油田開発についても、軍部が暴発しないという保証は、全くありませんからね)。
投稿: Mars | 2005/10/04 21:32
いつも貴重なコメント、ありがとうございます。
国慶節の休暇で、当社の駐在員も今週は多数里帰りです。
何人かと話しましたが、「中国は相変わらず問題だらけの国、本当にオリンピックを開催できるんだろうか?」と
真面目に話す者もおりました。私もその通りだと感じています。
この国は、本当にどこへ行くのでしょうか?
投稿: Y.N | 2005/10/04 23:47
シナ関連の情報で、よく見るサイトのひとつに以下があります。
「日々是チナヲチ。」( http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/ )
その中から、気になった記事を少し紹介。
1)中央が地方官僚を統率しきれない現状
↓造反官僚続出「炭鉱投資、クビになってもやめない!」
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/d336af67cfc3e547a035aeff6cd6cd2c
↓続・炭鉱の官民癒着――地方官僚、中央への造反者相次ぐ。
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/c41eeb434b012b5cd28fcfc203ea1acb
2)胡錦涛と人民解放軍
↓胡錦涛が軍主流派の支持を獲得した模様。(上)
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/e3b917ed5bd9955efe45a3a9c1c850bc
↓胡錦涛が軍主流派の支持を獲得した模様。(下)
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/m/200509
投稿: 岩手の田舎人 | 2005/10/05 02:20
おはよう御座います。
広東がここまで行ってるとは思いませんでした。広東は香港(西洋風)の影響で、嘗ての日本と韓国の様な並行した発展があり、独立(共産党崩壊後)がもしかしたら先にあるかも?なんて考えてました。逆に、北京オリンピックに対するインフラ投資が、2008年後足を引っ張り、天津の崩壊と共産党の求心力の低下が先か?
鶏が先か卵が先か、想像が膨らむところです。
投稿: NZ life | 2005/10/05 06:05
>岩手の田舎人様
ありがとうございます。
リンク先を参照させていただきました。
胡錦涛を軍主流派が支持したといっても、輿に担ぎ上げられたようなもので、「=軍を掌握した、というわけではない」、という所がミソですね。
また、胡錦涛と温度差がある連中もいるということですね。胡錦涛は「軍事力に拠って強硬姿勢」というあくまで”ポーズ”に留めておきたかったかもしれないのに、血気に逸った一部の連中が「原潜による領海侵犯」や「資源紛争地域への海軍派遣」といった武断的”アクション”に踏み切ってしまった。あてつけな的要素もあるかもしれませんが、軍部が暴発する可能性も決してないわけではないと、より一層思いました。
投稿: Mars | 2005/10/05 11:12
道理で米国のシンクタンクの1つが
「中国共産党政府は崩壊寸前である」
と指摘する筈だと納得してしまうエントリーです。
そもそも公害問題1つとっても人民の暴動、ストライキ
テロ揺動を予感させるものですからね。
人民解放軍の忠誠もどこまでやら┐(´ー`)┌
然も支那人そのものが拝金主義、徹底した
個人主義でありますからこれで巧く行くほうが
奇跡中の奇跡だと言うべきでありましょう(w
宝くじ3億円を10回当てる方がどれだけ容易い事か。
投稿: abusan | 2005/10/05 11:19
皆さん、こんにちわ。
コメントありがとうございます。
中国、もはや末期症状か、という感じです。
北京オリンピックまでは持つと思いますが、その反動で景気が失速したまま10年の上海万博までたどり着けるのか?
まさに綱渡りが続くと思います。
投稿: 坂 眞 | 2005/10/05 12:00