憲法はまだか
1946年2月13日 首相官邸
松本蒸冶(憲法担当大臣):ご報告を申し上げます。本日午前10時より外相官邸にて、総司令部のホイットニー民生局長ほか3人(ハーバード大学出身の弁護士資格を
持つ)と会談をいたしました。
幣原喜重郎(総理):ご苦労さんでした。どうぞ!首尾はいかがでした!
松本:それが奇妙奇天烈(きてれつ=非常に不思議なさま。珍妙なさま)な話になりまして。
幣原:奇妙奇天烈
松本:結論から申し上げますと、マッカーサーはわれわれが提出した憲法改正案を
受諾できないそうです。
幣原:ほう~!やはり11条の軍規定が気に入らんのですか?
松本:いや!そういう問題ではありません。全面的に拒絶されたのです。いや、拒絶したばかりではなく、驚いたことに、奴さんたち民生局で作った別案を持ってきました。
幣原:別案を!
松本:これがそうです。われわれの政府案は要綱のみでしたが、向こうのは長ったらしく、憲法そのものを書いてきたのです。
幣原:受け取ったのですか?
松本:受け取らざるをえないじゃないか!
幣原:序文が付いているんですか!
吉田茂(外務大臣):そこは飛ばして、まず第1条をお読み下さい。
幣原:The Emperor shall be the symbol of the State and of the Unity of the People,
楢橋渡(内閣書記官長):symbol
幣原:deriving his position from the sovereign will of the People, and from no other source.(天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く)
松本:一体、総司令部は何を考えているでしょうかね。もっともホイットニーは、これを
日本側に押し付けるつもりはないと、いいましたがね。
幣原:詳しく話してください!
松本:まあ、要するに強制はしない、強制はしないけれど、マッカーサー元帥は、アメリカ国内の、また他の国の強烈な反対を押し切って、天皇陛下を擁護するために苦心をかさねておると。このGHQの憲法案の範囲であれば、なんとか、天皇陛下のご安泰を図れるであろうと。
幣原:・・・
吉田:総理、第8条はいかがですか!
幣原:War as a sovereign right of the nation is abolished.
幣原:abolished(放棄).The threat or use of force is forever renounced as a means for settling disputes with any other nation. (武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する)
楢橋:戦争の放棄ですか!
松本:まあ、いずれにしても、これを丸ごと受け入れる義務はないでしょう。日本の憲法は日本人の手でつくるべきなんですから。
幣原:それは私も同感です。
楢橋:しかし、GHQは日本政府案を受け付けないといっているのでしょう。
松本:だから!さっそく終戦連絡局の白州次郎君を総司令部に派遣して、交渉にあたらせているんだ。政府案とGHQと根本的な相違はないということをだな。
吉田:しかしホイットニーは強硬でしたよ。マッカーサー元帥は、このGHQの案が日本政府の案として発表されることを強く望んでいると。
松本:冗談じゃない。そんなみっともないまねできるもんかね。
吉田:もしそれができないなら、マッカーサー元帥自身の手で、日本国民に発表する
ことになるであろう。
松本:恥をかきますよGHQは。こんな途方もない憲法みたことがない。まるで共産主義の作文ですよ・・・とにかく憲法の何たるかをしらないんですな!
一院制になったら、困りますよ。総理も私も吉田君も選挙に出なければならなくなる。
幣原:吉田さん。この文章を知っているのは誰と誰ですか?
吉田:ここにいる4人(松本・幣原・吉田・楢橋)と、白洲次郎君、それに通訳の長谷川君だけで・・・
幣原:定例閣議まで秘密にして置いてください。トップシークレットです。
吉田:はあ
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白州次郎(終戦連絡事務局次長):けんもほろろです。取り付く島 もありません!
松本:われわれの立場はどうなるんだ。憲法問題調査委員会の面目は丸つぶれじゃ
ないか。
白州:GHQ案は日本政府に最大のプレゼントだそうです。善意と友愛に満ちたこの案を飲めないのなら内閣を総辞職すべきだ。そこまでいわれました。
松本:メイドインUSAの憲法案なんか飲めるわけがないだろう!他人の褌(ふんどし=男子の陰部をおおう布)で相撲を取れというのか。
楢橋:それにしてもGHQはいつの間に憲法なんか。
松本:計画的なんだよ、最初から政府案を蹴るつもりだったんだ。
白州:いや、そうじゃありません。ケーディス大佐に聞いた話しなんですが。あの憲法案は民生局のメンバーがたった1週間でまとめ上げたそうです。
GHQ民生局(GS)は、ニューディーラーで弁護士出身のホィットニー局長とケーディス次長に率いられ、占領初期の民主化政策を推進担当し、占領初期の日本民主化に
大いに貢献した。
1933年以降、米国大統領F・ルーズベルトが大恐慌による不況の克服を目的として
農業調整法(AAA)・全国産業復興法(NIRA)・社会保障法などを制定・施行し、テネシー渓谷開発事業(TVA)などを実施した。
この一連の社会経済政策をニューディール(New Deal=「新規まき直し」の意味)といい、ルーズベルトの下でこのニューディール政策を立案・執行した人々をニューディーラーという。
松本:1週間!
楢橋:まさか!
白州:マッカーサーからの作戦命令が出たのが2月3日、作業を開始したのが2月4日だといわれました。
1946年3月4日 GHQ(連合国軍総司令部)
マッカーサー草案(日本文)を示された後、それを修正した松本私案
白州次郎(終戦連絡事務局次長):この政府案は、閣議を経てませんので、決定案ではありません。松本国務大臣によるあくまでも私案の段階です。
ホイットニー:英語でなないようだが!
白州:翻訳が間に合いませんでした。
ケーディス:では、いますぐ翻訳しましょう!
松本蒸冶(憲法担当大臣):この場で?
ケーディス:そうです!皆さんお掛けしてください。
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ケーディス:ミスターサトウ!前文がついていませんね!
佐藤達夫(法制局次長):必要ですか?
ケーディス:当然です。憲法の精神を述べた前文の削除は論外だ。
松本:待ってください。
ケーディス:前文に関しては一言一句の変更も許されん!
松本:前文をつけるならば、天皇のお言葉にしなければなりません。
ケーディス:なぜですか?これは民主憲法ですよ!
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ケーディス:「天皇ハ日本国民ノ至高ノ総意ニ基キ」となっていますが、われわれの
原文にある、「それ以外のなにものにも基づくものではない」、これもカットされていますね!
松本:憲法の文章は簡略なほどよろしい!くどくど書くものではありません!
ケーディス:あなた方には誠意がない!われわれをだます気だ!
松本:そんなことはない!
ケーディス:内閣の“ホヒツ”とはどういうことか?原文では「“助言と同意”の下に」と、なっているはずだ!
松本:日本語の“輔弼”は同意語です。
ケーディス:認められん!
松本:日本語まで変えるつもりですか?
ケーディス:聞き捨てならない!
松本:あなたこそ失礼ではないか!
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ケーディス:だめだ!日本国民では外国人が除外されてしまう!すべてのナチュラルパーソンは、人種、信条、性別、階級にかかわらず法の下に平等である。
佐藤:ナチュラルパーソンにあたる適切な言葉は日本語にはありません。
ケーディス:まさか!憲法の精神を翻訳によって曲げることは許さん!
1946年3月7日、政府憲法草案要綱を発表 マッカーサー全面支持
1946年7月17日 首相官邸
GHQ民政局のケーディス大佐が首相官邸へ
GHQの文書=憲法草案の日本文と英文の相違について、日本語訳は主権、すなわちsovereign willを至高に変えてしまっている。しかし、至高は法律的な意味において
なんら主権の概念を伝えていない。
至高=この上もなく高くすぐれていること。最高(大辞林)
ケーディス大佐:ミスター金森、国会の答弁では、国体、および天皇の地位について
どのような説明を?
金森(憲法担当大臣):国体とは、“国民国家の特質”であり、“政治の形態”ではないと、そう説明しました。
ケーディス:なんですと!
金森:この憲法で“政治の形態”は変わります。だが、“国民国家の特質”は変わりません。
ケーディス:意味が良くわからない。文書で書いて提出してください。
金森:そうします。
ケーディス:主権の所在について日本文の表現は、不明確だ。前文もしくは条文で、
主権が国民にあることを明示しなさい。
金森:明示してあります。
ケーディス:していない。意図的に内容を歪(わい)曲しているとしか思えん!
金森:それは誤解です。
ケーディス:“国民の総意が至高”とはどういうことなのか。主権が国家にあるともとれる一方で、天皇、内閣、国会、裁判所に分属するようにもとれる。または、それらの国家機関も共有であるともとれる。何通りもの解釈ができるような表現は一種の欺瞞(ぎまん)だ。主権が国民にあることを明文化しなさい!
金森:・・・
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(首相らとの協議)
金森:ケーディス大佐は聞きしに勝る頑固者ですな・・・こっちも負けずに言ってやりましたがね。議会の答弁はあれでいいと、私は信じている。どうしてもというのなら私は大臣を辞めるしかない。いっそのこそ公職追放の対象にしたらどうですと!
芦田:(憲法改正特別委員会委員長):GHQも必死なんでしょう。極東委員会の手前ね。
吉田:(首相):まるでジャンケンみたいなものだ!
芦田:ジャンケン?
吉田:日本はGHQに弱い。GHQは極東委員会に弱い。極東委員会は日本の復讐を
恐れている。
芦田:なるほど。
金森:いかがいたしましょうか。このままでは決着のつけようがありません。
芦田:主権でいいじゃないですか。sovereign willは主権ですよ。至高という言葉は
幣原さんがひねり出したたんです。
金森:しかし、政府案担当者としては、いまさら手のひらを返すように主権でございますとは、いえませんね。
吉田:自由党に提案させましょう。
金森:自由党にですか?
吉田:社会党や共産党を出し抜いて先手を打つんです。与党の提案ということなら不名誉にはなりません。
芦田:名案ですな。
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(国会での答弁)
金森:政府としましては、総司令部の指摘に対し、相当長く抵抗してまいりましたが、結局のところ衆議院の議決により主権と改めざるをえなくなりました。国際社会の目を尊重する意味であえて露骨な表現をとるに至りましたが、至高と主権とはおそらく同じ意味であり、文字が変わっただけであるとご理解下さい。
1946年8月24日 芦田小委員会修正案衆議院可決
9月23日午前、首相官邸にホイットニー准将とケーディス大佐が
ケーディス:ワシントンの極東委員会で憲法修正案が論議され、その席上ソビエト側からの注文がついた。その注文というのは「首相及び国務大臣は全てシビリアンでなければならない」との条文が欠落している、と。
金森(憲法担当大臣):いまさらいわれても困るね。すでに衆議院を通過したんだから!
ケーディス:貴族院での修正は?
金森:そう簡単にはいきませんよ。
ケーディス:憲法を変えるわけではない。シビリアン条項を加えるだけだ。極東委員会に要請は尊重しなければ!
金森:ソビエトがそんなにこだわる理由は?
ケーディス:将来日本が再軍備しても、シビリアン条項があれば、軍部を支配できる
からだ。
入江俊郎(法制局長官):再軍備?しかし日本は戦争を放棄したんですよ。
ホイットニー:それについて中国の代表から重大な指摘があった。修正案の9条で使われている言葉で・・・「前項の目的を達するために」という文言がある。つまり第1項の
目的以外の目的ならば、再軍備が可能との解釈が成り立つ。
入江:それは誤解です。
ホイットニー:誤解を招くような言葉があってはならない。中国代表はさらにこういって
いる。もし日本が軍隊を持っても日本はそれを軍隊といわず、戦争をしても戦争とは
いわないだろう。
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金森:いやあ、驚きましたね。日本の議員でさえ気づかないのに‥‥中国は実に鋭いですね!
入江:それはそうでしょう。散々侵略を受けた国ですから。
吉田:シビリアン・コントロールは受け入れざるをえないな。
佐藤達夫(法制局次長):シビリアンに訳語は日本語に見あたりませんが。
入江:武官でなければ、文官でしょう。
金森:イヤイヤ 武官が存在しないのに、文官というのは変だ。
佐藤:そうすると、文民ですか。
入江:文民ね・・・ なるほど。
吉田:それでいこう。シビリアン・コントロールなら文民統制でいいじゃないか。
入江:かしこまりました。
金森:第9条はどうするのですか。前項の目的を達するため・・・
吉田:そのままでいい。
入江:そうですね 文民条項を入れるわけですから。
金森:また作業が遅れそうだな。
吉田:(憲法の)公布は11月3日でどうだ。
金森:明治節(明治天皇誕生日)ですな。
吉田:そう、明治節だ!!! あっはっはっ!
1946年11月3日 日本国憲法公布 新憲法公布記念祝賀都民大会
宮沢東大教授:これは人類の理想を掲げた憲法です。世界で一番優れた憲法だと
思っていいでしょう。日本は一切の戦争を放棄しました。兵隊も鉄砲も軍艦も持たないと宣言したのです。わたくしは、誇りもってこれを平和憲法と名づけたいのです。
記者:そのー!国体についてですが。変革したとお考えでしょうか?
宮沢:当然です。主権が国民に移ったのですからね。わたしは、去年8月15日に革命が起きたんだと解釈しています。もっともこの革命は国民が起こしたのでなく、ポツダム宣言の受諾という外圧によるものではありましたが・・・
1947年1月4日
入江:マッカーサーはこういっています。本年5月3日の憲法施行後、初年度と2年度の間で日本国民はもう一度憲法を改正してよろしい。
金森:ふ~ん
芦田:どういう意味ですかね。
金森:自己弁護ではありませんか?占領軍の押し付けでないことを印象付けるための!
入江:総理、返事はどう書きますか?
吉田:おおきなお世話だ!
入江:はあっ?
吉田:おおきなお世話だと、書きなさい!!!
憲法はまだか(NHK土曜ドラマ=1部:1996年11月30日・2部:12月7日放送)
上記の迫真のやり取りは、日本国憲法制定の過程を描いたNHKのノンフィクション・ドラマを再現したものである。
このドラマは、1995年9月、衆議院帝国憲法改正案委員小委員会(通称:芦田均小委員会)の秘密議事録が50年ぶりに公開されたことをきっかけに企画され、翌1996年の日本国憲法制定50周年記念として製作された。
脚本は、ジェームス三木氏。
三木氏は、基本部分は史実に忠実に、そしてテレビに要求される臨場感あふれる場面を再現するために、部分的にフィクションを入れたと言う。
つまり、核心的部分は事実である、ということだ。
なお、三木氏は、後日「憲法はまだか」という長編小説を書いている。この3月5日、
三木氏は、この「憲法はまだか」という長編小説に関して毎日新聞のインタビューを受けている。「戦後60年の原点:その時、子どもだった」という記事だ。
この中で、三木氏は、現憲法を支持していること、軍隊をあまり信用していないことなどを明らかにしている。つまり、上記ドラマの脚本は、「憲法擁護派」によって書かれたものである。
なお、これは、「多夢・太夢ページにようこそ」さんのページに掲載されていたものである。
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>GHQも必死なんでしょう。極東委員会の手前ね。
>まるでジャンケンみたいなものだ!
>ジャンケン?
>
niftyにエントリーを破壊されました!!!(怒)
なにがメンテナンスだ!!!
ココログベーシック/プラス/プロがバージョンアップ
しました、だって?
笑わせるな!!!
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
ココログのメンテナンス以来、ページの表示が異常で参っています。
niftyは、ちょっとおかしいんじゃないか。
いつもこうだ!!!
投稿: 坂 眞 | 2006/03/28 21:48
坂様 今晩は。
表記文章中の誤字の件です。でどうかご確認下さい。
●幣原喜重郎(総理):ご苦労さんでした。どうぞ!守備はいかがでした!
→幣原喜重郎(総理):ご苦労さんでした。どうぞ!首尾はいかがでした!
ご確認頂きましたら削除して頂きたく思います。いつも興味深く拝見しています、どうかよろしくお願い致します
投稿: mimiga | 2006/03/29 04:07
コメント欄が英語化してる・・・
ココログは有料ユーザーの方が無料ユーザーより冷遇されたり、サーバがしばしばおかしくなったりと不評多いですね・・・ NiftyもTTYサービスだったかを停止してしまいましたし、今は昔って感じですね・・・
投稿: RARTY | 2006/03/29 09:49
mimigaさん、ご指摘ありがとうございます。
訂正しておきました。
RARTYさん、「ココログ」、本当に使いづらいです。
昨日は、マジで頭に来ました。
記事のいちばん大事な部分がアップできずに消滅。
疲れがどっと出て、書き直す気分になれませんでした。
皆さん、悪しからず。
投稿: 坂 眞 | 2006/03/29 16:55