全人代に見る中国の実相
今月5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代=国会)に関するニュースを
読んでいると、現代中国のとんでもない実相が見えてくる。
①全人代に直訴しようとする農民らが、全国から大挙して北京に押しかける。これを
公安当局が強制的に地方に送り返す。
この光景に、現代中国の現状が凝縮されている。
【北京=野口東秀】中国で5日に開幕する全国人民代表大会(全人代=国会)を前に、北京南部の通称「直訴村」で公安当局が取り締まりを強化、路上で野宿していた陳情者らのテントやベッドなどを強制撤去した。一泊数十円の簡易宿舎に寝泊まりしていた陳情者も多数拘束したもようだ。
直訴村には、土地の強制収用や地方官僚の腐敗などに抗議して、北京へ直訴に来た農民らが集まっている。陳情者によると、公安関係者ら当局者がまず今月1日未明、
トラックを含む十数台の車両に野宿している者の所有物を強制的に積み込んで持ち去った。
全人代を控え、陳情者を地方に送り返すのが狙いとみられ、強制撤去に抗議する
陳情者らは同日午後、「中国に人権なし」などと書いた布を掲げて訴えた。海南省から来た陳情者の一人は「持ち物のすべてを奪われた。政府は
『和諧(調和のとれた)社会』を掲げているが、口先だけだ」と怒りをあらわにした。
陳情者の話を総合すると、当局は連日、数百人規模の陳情者を拘束しているもようだ。
当局が取り締まった「直訴村」は、地方からの農民ら4、5千人が住む一帯。市内全体では一万人を超えるこうした人々がいるとされる。土地を失い行き場のない農民や、「唯一の家族だった子供を村幹部に奪われ、帰る場所もない」と訴える陳情者もいる。
一人っ子政策に反する形で生を受けた無戸籍者もおり、身分証も現金もないために
正規の宿舎に宿泊できない者も少なくない。
②官僚の腐敗・横暴や土地の強制収用などに不満を持ち、地方の各級裁判所に直訴した件数が、何と年間400万件。
当局によれば、これでも「過去の件数と比較して減少した」と言う。
【北京=野口東秀】中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で11日、最高人民法院(最高裁)の蕭揚・同法院長(最高裁長官)が昨年一年間の活動報告を行い、農民らが官僚の腐敗・横暴や土地の強制収用などに不満を持ち、地方の各級裁判所に「直訴」(手紙を含めた陳情)した件数が399万5244件に上ったことを明らかにした。
当局は過去の件数と比較して減少したとしているが、依然として直訴が絶えない窮状が明らかになった。
(後略)
③しかし、直訴しても、肝腎の裁判所が腐敗・堕落しているうえ、司法の能力もない。
だから全人代が開かれている北京に直訴目的の農民が押しかける。
地方政府が裁判所の経費や人事を管轄しているため、司法は地方政府の支配下に
置かれることになる。
そこには、「司法の独立性」などまったくない。
そして、共産党幹部や役人が幅を利かし、横暴がまかり通る。「法治」ではなく「人治」の下で、民衆は当局の理不尽な仕打ちに泣く。
↓
中国、深刻な裁判官不足 滞る給料・過重な仕事量 全人代報告
【北京=野口東秀】中国で開会中の全国人民代表大会(全人代=国会)は11日、最高人民検察院(最高検)と最高人民法院(最高裁)の活動報告を行った。「劣悪な待遇」や「過剰」が裁判官の不足、質の低下を生み、司法腐敗に結びついている。
報告では裁判官の「法に対する能力と水準の向上」が重要課題に挙げられた。暴力的言動や知人が絡む訴訟などに対する情実判決が目立ち、昨年一年間で延べ11万人の裁判官に「育成訓練(再教育)」を施したという。
(中略)
最高人民法院の蕭揚院長は「司法と地方政府が癒着し、法治の原則を脅かしている」とし、地方政府が裁判所の経費や人事を管轄する構造を根本的
問題に挙げている。
④中央政府は、相変わらず「おいしい話」を羅列する。
「貧富の格差や資源浪費、環境破壊など急成長がもたらしたひずみ是正に取り組む」
「特に農村対策を最重視する」
・・・
ところで、これまでは20~30年後のバラ色の未来を語ることが多かった中共政府が、
今回は、現状に対する危機感を露わにした言葉を口にしている。
「社会・経済の安定と諸矛盾緩和を最優先し、08年北京五輪、10年上海万博までの5年間を無事乗り切る」
と・・・
つまり、「社会・経済の安定と諸矛盾緩和」が早急にできなければ、「08年北京五輪、10年上海万博までの5年間を無事乗り切る」ことができなくなるということだ。
【北京=竹腰雅彦】中国の第10期全国人民代表大会(全人代=国会)第4回会議が5日、北京の人民大会堂で開幕し、温家宝首相は政府活動報告で、2006年の経済成長率目標を8%前後、「第11次5か年計画」(2006~10年)期間の年平均成長率目標を7.5%とし、景気過熱を抑制しつつ、これまでの成長至上主義から持続的な安定成長を目指す方針を示した。
同時に、貧富の格差や資源浪費、環境破壊など急成長がもたらしたひずみ是正に取り組み、特に農村対策を最重視する立場を強調した。
報告は、均衡発展を目指す胡錦濤国家主席の指導思想「科学的発展観」に基づき、
社会・経済の安定と諸矛盾緩和を最優先し、08年北京五輪、10年上海万博までの5年間を無事乗り切るとの政府の基本認識を浮き彫りにした。
最大の懸案である農村問題について温首相は、「国の社会基盤建設の重点を農村に置く」と言明。「三農」(農業、農村、農民)対策に前年比422億元(1元=約14.5円)増の3397億元を投入し、農民の収入増を図るほか、農村の義務教育を保障するため、毎年1030億元を今年から支出。さらに、08年までに全国の農村で新たな
医療制度を確立、都市との格差解消を図るとした。
(後略)
⑤「三農」問題を抱える農村は、極貧状態。水も電気もガスも舗装道路も、な~んにも
ない。
「ハア、テレビもねえ、ラジオもねえ、車もそれほど走ってねえ、ピアノもねえ、バーも
ねえ、巡査毎日ぐ~るぐる」
これは、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」の歌詞だが、中国の農村はこんなもんじゃない(笑)
第10期全国人民代表大会第4回会議の8日午後の会見で、農業部の尹成傑副部長、国家発展改革委員会の杜鷹副主任、財政部の朱志剛副部長らが「社会主義新農村」の建設について、内外記者の質問に答えた。
(中略)
(2)農民の生産・生活環境の改善においては、「水、ガス、道路、電気」の4点に集中的に取り組む。
今年は昨年比倍増の40億元を投じ、さらに2000万人分の飲用水の安全を確保する。昨年比2.5倍の25億元を投じ、さらに250万戸分のメタンガス池を整備する。
国債と自動車購入税から170億元余りを投じ、道路18万キロを整備する。東中部地区の重点は郷・村間のアスファルト道路整備、西部地区の重点は県・郷間のアスファルト道路の整備だ。
国債から12億元を投じ、中西部の一部で農村の送電網整備を進め、電気が通っていない郷の電力建設に着手する。
(3)60億元余りを投じ、農村の教育・衛生・文化事業の発展を加速する。
⑥当局は、「農村を重視する」「農民の生活環境を改善する」というが、それを推進する肝腎のお役人は汚職で真っ黒。
05年に汚職で逮捕された公務員は、全国で何と4万人余。しかも、これは、あくまでも
表面化した数字。実際は、この数十倍に上るのではないか。
↓
中国:汚職公務員、全国で4万人余--05年逮捕、前年比5%減
【北京・大谷麻由美】中国最高人民検察院(最高検)の賈春旺検察長は11日、全国人民代表大会(国会)で05年の活動報告を行い、収賄や横領の汚職事件などで逮捕された公務員が全国で4万1447人(前年比5.28%減)、起訴人数は3万205人(同1.89%減)だったと発表した。
報告によると、収賄や横領の金額が10万元(約150万円)以上の汚職事件で逮捕されたのは8490人。閣僚・省長級幹部の逮捕者は前年11人から8人に減少した。収賄や横領の総額は74億元(約1110億円)余に達し、前年の45億6000万元(約684億円)から大幅に増加した。また、犯罪発覚を逃れるための
国外逃亡も増えており、逃亡先での逮捕は703人(同14.5%増)だった。
地方の炭鉱事故や化学工場爆発、環境汚染などの重大事件11件についても、責任者ら52人を逮捕した。
(後略)
⑦中共政府は、「三農」問題を解決するには、「「地方の党、行政幹部が権力を握っている農村の民主化を進め、村民の権利を保護し、自治を拡大することで、農民が農村の主人公となるように改める」ことが前提であることは解っている。
しかし、事実を隠蔽し、当局に都合の悪い報道をするメディアを弾圧する政府に、「農村の民主化」を進めることなど、本当にできるのであろうか???
「権力を有効に監督できる政治改革なしに農村問題の解決は無理だ」という「中国筋」の指摘を過去のエントリーで紹介した。
が、この「権力を有効に監督できる政治改革」は共産党独裁の自己否定につながる。
事実を隠蔽し、メディアを弾圧する当局に対して、地方の代表からも異議申し立てが
上がり始めた。
【北京=吉田健一】9日の新華社電によると、北京で開かれている全国人民代表大会(全人代)で、吉林省代表の王維忠氏が「記者が真実を伝えるのを、暴力などを使って妨げようとする者は厳しく罰せられるべきだ」と述べ、報道の自由の保護を含むメディア関連法規の必要性を訴えた。
王氏は、「調査報道や社会悪を暴く報道をしようとする記者が様々な妨害を受けたり、時には殴られたりするケースもあると承知している」と述べ、報道への抑圧に強い懸念を示した。
(後略)
以上、全人代で示された中国の実情から、以下のことが解る。
①経済発展から農村が取り残され、農民は経済的に困窮していること。
②共産党幹部や役人の腐敗・堕落が深刻であること。
③政治・行政権力を監督するはずの司法が、政治・行政権力の支配下にあること。
④しかも、司法そのものも腐敗・堕落しており、法の執行能力に欠けていること。
⑤そのため、政治・行政権力の無法・不法がまかり通っていること。
⑥これに対し農民の間には、怒りと不満が充満していること。
⑦この「農民の怒りと不満」が、体制を揺るがしかねないと中共政府当局も自覚して
いること。
⑧そこで、「特に農村対策を最重視する」政策を打ち出さざるを得なかったこと。
⑨しかし、「地方の党、行政幹部が権力を握っている農村の民主化を進め、農民が農村の主人公となるように改める」ことが、「三農」問題を解決するための前提であるが、
それは極めて困難であること。
はたして中国は、「08年北京五輪、10年上海万博までの5年間を無事乗り切る」ことができるのであろうか???
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コメント
個人的には中国は「2006年に外資系に人民元取扱い開放」、いわゆる2006年問題を乗り切れないと思っています。外資系銀行人民元取り扱い開始>国有銀行から預金流出>不良債権問題悪化(今でも酷いですが)>深刻な不況へ この流れを回避するためには、今年の年末までに何らかの有事(戦争、戦乱含む)を起こして延期するしかないですが、有事が起きると北京五輪に赤信号が点灯。もはや中共は詰んだと考えます。
投稿: KTX003 | 2006/03/13 12:44
共産主義というイデオロギーがもつ非道徳性が、国家だけでなく地方幹部にまで浸透している。こうした現状では、権力による締め付け以外に人民の抗議行動は抑圧できない。しかし、そのような抑圧政策がいつまで続くようだと、暴動を通り越してクーデターにまで発展しかねない。もう「反日」などのごまかしで抑制できない地点にまで来ているように見受けられる。
唯一の救いは、順調な経済発展だが、非効率な設備投資と膨大な不良債権、時代遅れの製品在庫過多など、不安定要素も多い。経済成長を持続させるカギは、海外資本の流出をどう防ぐかにかかっている。中国が覇権主義を前面に打ち出すような事態が現出すれば、即中国経済の破綻を招くことだけは間違いない。
投稿: プライム | 2006/03/13 14:06
「社会・経済の安定と諸矛盾緩和を最優先」って言いますが、つい先日空母建造のニュースがあったと思うのですが。
正直中共政府が滅ぶのは自業自得ですから構わないのですが、巻き込まれる国民が憐れ、周辺諸国(日本含む)被害が心配です。
私は寡聞にして知らないのですが、日本は北朝鮮お呼び中国崩壊時のシミュレーシヨンを行っているのでしょうか?
投稿: kan | 2006/03/13 14:20
張子のトラなんですよね。
空母もロケットも農民の犠牲で作るようなもんですから、内政干渉といわれても、人権の問題として、日本は、中凶の圧制体制を批判すべきです。ただ崩壊時にやけくそになって原爆使うかも知れませんからねぇ・・
投稿: SAKAKI | 2006/03/13 17:31
こんにちは
中国国民の不満を外に向けて(日本)に向けてきたがそれでも収まらないときは、紛争が一番の解決策だと思っているだろう。
国際社会に対しての宣伝は中共のほうが一枚上手です。日本を悪者にして尖閣諸島に侵攻し海保や海自と衝突したら、きっと媚中派や親中派は小泉さんのせいにするのだろうな。
安保と言う抑止力が日本を守る上で、絶対に必要です。
投稿: nasadon | 2006/03/13 17:58
国家主権は国民にはなく共産党にある。
国民には選挙権もない。つまり民意が政権に反映されない。
これでは腐敗や汚職は無くならない。
中共の抱えている問題の根源的原因は中国共産党そのものにある。
投稿: yuki | 2006/03/13 19:33
中共はいま民主的選挙制度の導入に取り組んでいると聞きますが、どの程度進んだのでしょう?
維持するには最低限これが出来ていなくては
ならないでしょうに。
せめて崩壊する前に戦況精度と国民の主権意識が定着していなければ、例え政府を造り直したとしても、同じ事を繰り返す。
投稿: MultiSync | 2006/03/13 20:57
そもそも、「法で統治をすべし」なんて内容の書物(「韓非子」)が出現するような文明でしょう?
「法に従う」ことにメリットを見出さない人間が社会を構成するのだから財力・権力・暴力が支配の根幹を形成するのは至極当然。
最善の結末は内戦で中国人が減って、焦土の中から新たな意識に基づいた文明が産まれることです。
投稿: 煬帝 | 2006/03/13 22:08
まあ、日本は最低限、8月15日の靖国参拝と言う
圧力をかけてくると思いますな。これこそ中共政府の
面目を丸潰しにする事ですし、反日勢力のあぶり出し
にもなる。首相は政局大好き人間ですからね(w
米国当局も実質上中共政府を見放しているのではと。
投稿: abusan | 2006/03/14 09:05
富士フィルムが国内で4000人(?)解雇して、中国でのデジカメ生産に力を入れるという話。ファインピクスF11の愛用者なのに全く以て残念。しかし、依然としてこういう企業が後を絶ちませんな。どうせ海外移転するなら、反日が国是で核ミサイルを日本に向けるような国はやめて欲しいよ、ホントに。
投稿: duzhe | 2006/03/14 10:29
皆さん、こんばんわ。
コメント、ありがとうございます。
中共、
気付くのが5年、遅すぎました。
江沢民ではダメ!
だというのに・・・
もう手遅れですね。
こういう例、多いですね。
特に、オーナー企業の、ワンマン独裁。
気がついたら、企業は既に崩壊の淵。
俺は真面目に働いてきたのに、
ではダメなんですよ!
世の中は(笑)
投稿: 坂 眞 | 2006/03/14 21:11