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2006/08/09

対小沢のキーマン、二階をどう扱うのか

今日の讀賣新聞朝刊が、9月の自民党総裁選で、丹羽・古賀派代表の古賀誠(元幹事長)と二階派会長の二階俊博(経済産業相)の二人が、安倍晋三(官房長官)を支持する意向を固めたと報じている。

古賀・二階氏も「安倍支持」、総裁選の優位が確定的に

ただ、古賀は、「非安倍」勢力結集の急先鋒と見られていただけに、本当か否かは今のところ確信が持てない(というより、そうあってほしくない)。が、二階が派を挙げて安倍支持を打ち出したのは間違いない、と私は思う。

二階に関しては、他紙も讀賣新聞ほど断定的ではないが、同じような内容の記事を報じている。

二階グループが政策提言 総裁選対応はなお未定 (朝日新聞)
自民総裁選:安倍氏支持にじませる政策提言発表 二階派 (毎日新聞)
二階派が安倍氏支持示唆 (日本経済新聞)
二階経産相「靖国問題で首相を決めるべきでない」 (産経新聞)

各紙がこのように報じたのは、8日、同派が発表した「党総裁選に向けた政策提言」の内容による。
①格差問題で、フリーターの就職支援など「常に挑戦できる社会の構築」を提唱して
おり、総裁選で先行する安倍の「再チャレンジ」政策と重なっている。
②靖国神社参拝問題にまったく触れていない。
この靖国問題について二階は、記者団に対して「この問題で日本の総理を決めるということまでは国民が期待していない」と語っている。
これも「総裁選では首相の靖国参拝問題を争点にするべきではない」という安倍の立場と同じである。

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実は、私は7月30日の時点で、「二階は安倍支持」という内容のエントリーを書くつもりだった。原稿も8割方できあがっていた。
なぜ、二階は「安倍支持」と書こうとしたのか?
その理由は次のとおりである。

二階は、山崎拓(元副総裁)や加藤紘一(元幹事長)らが画策する「安倍包囲網」に
参加してもおかしくない条件がそろっていた。

①親中派の二階と対中原則派の安倍は、対中国で相反する立場にいる。
②昨年の人権擁護法案をめぐって、古賀-二階のラインと安倍を中心とした中堅・若手グループは激しく対立した。
③二階は、古賀だけではなく、非安倍の態度を鮮明にしている山崎とも親しい。

にもかかわらず、二階は非安倍・反安倍の勢力とは一線を画していた。

①福田康夫の不出馬が明らかになった後に、何度か開催されている「非安倍」の派閥領袖クラスの会合に、二階は一度も参加していない。
②加藤や古賀と違い、今回の「富田メモ」にあった「昭和天皇発言」に対しても「直ちに政治が反応することは慎重であるべきだ」(2006/07/22 毎日新聞)という態度を貫いている。

実質的な安倍応援団である「再チャレンジ支援議員連盟」にも、14名(昨日から15名)の派閥メンバーは、誰一人として参加していない。が、靖国問題については、「黙って
いることで、国益に貢献することも大事だ」と語っている。(2006/07/29 讀賣新聞)。
つまり、7月30日の時点で二階は、非安倍なのか親安倍なのかは明らかにしていない。しかし、非安倍・反安倍の勢力が総裁選の「最大の争点」にしようと画策していた
靖国問題については、明確に安倍の側に立っていたということだ。

二階は、安倍支持を明言し、山崎との決別も辞さないとしている幹事長の武部勤(山崎派)とも親しい。この武部を通じて、安倍の「総裁選戦略の陰の指南役」とも呼ばれている中川秀直(政調会長)が、「二階抱き込み」に動いていた。
以上の流れを踏まえて、私は7月30日の時点で、「二階は安倍支持」という内容のエントリーを書こうとしたわけだ。が、イマイチ確信が持てなかったので書くのをやめた。

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なぜ、安倍とは政治的立場を異にする二階が「安倍支持」に傾いたのか。
それは、第一に非主流派にはなりたくない、つまり安倍政権でも主要なポストを確保したいという思惑である。が、それだけではない。最大の理由は小沢一郎率いる民主党に対抗するためだ。

中川が、二階抱き込みに動いたのも同じ理由による。
中川は、最初は、二階と非安倍・反安倍勢力を分断するために動いた。が、その目的をほぼ達成した後は、安倍首相誕生後への布石として二階との関係を深めている。
それは、来年夏の参議院選挙のためである。

仮に、安倍が総理総裁に就任した場合、最初に直面する壁は来年夏の参議院選挙である。
この選挙は、自民党にとって非常に厳しいと言ってもよいだろう。
まず第一に、心情的に政権交代願望を抱いている国民がかなりの割合で存在すると
いうことである。この層は、政権交代に直結しない参議院選挙では、特に反与党の動きを見せる傾向が強い。
実際、2004年の参議院選挙では、小泉首相-安倍幹事長の人気コンビで臨んだにもかかわらず、自民党は民主党に敗北した(自民49議席、民主50議席)。
また、来年改選になる議員の中には、2001年の小泉旋風のおかげで当選できた者が相当数いる。おまけに、昨年の郵政選挙の結果、有力議員の何人かが自民党から
離反している。

そんなハンディを抱えている中、民主党の代表に小沢一郎が就任した。小沢は、小泉内閣時代に溝ができた旧来からの自民党支持勢力に人脈がある。しかも小沢は、権力を手にするためには手段を選ばない。
共産党との協力さえ口にするほどだ。

この小沢に対抗するために、もっともふさわしい参謀は誰か?今の自民党を眺め回すと、それは二階しかいない。
二階は、1992年の竹下派分裂以来、新生党-新進党-自由党と小沢と政治行動を
ともにし、2000年4月の保守党結党までは側近中の側近だった。
自由党から保守党が分派する際、あの傲慢な小沢が、残留してくれるよう二階に頭を
下げた話は有名である。
つまり、今の自民党政治家の中で、小沢の性格や政治手法にもっとも通じているのが二階なのである。

加えて、二階には政治力もある。
二階派は、小泉チルドレンの一人だった長崎幸太郎(衆院議員)が7日、同派入りを
表明したことで、15名にまで膨れあがった。これは、次期総裁候補である谷垣禎一の
谷垣派に匹敵する数であり、麻生太郎が所属する河野派を大きく上回っている。
2003年に自民党に復党した時の二階派が、衆参併せて7名でしかなかったことを考えれば、この政治力には目を見張るものがある。

小泉純一郎(首相)が、2003年に復党したばかりにもかかわらず、二階を翌04年に総務局長に抜擢したのは、この政治力に目を付けたからである。
二階も、郵政民営化法案の衆議院通過や郵政選挙での刺客候補擁立に力を発揮することで、その期待に応えた。2006年の第3次小泉内閣で経産相に登用されたのは、
その論功行賞であることは間違いない。
二階も厚遇してくれた小泉には恩義を感じていると言われる。

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安倍が今の勢いのまま突っ走れば、総理総裁に就任するのは間違いない。が、来年夏の参議院選挙で敗北し、特に与党が過半数割れを招くような事態に陥れば、たちまち失速してしまう。下手をすれば進退問題にまで発展しかねない。
現在の参議院における与党の議員数は135名(自民111、公明24)である。現員より15名減れば過半数割れを起こすことになる。来年改選されるのは、自民65、公明13の
合計78名である。前回(2004年)選挙の与党の獲得議席数は60にすぎない。
過半数割れを起こす可能性は十分にあるのである。

安倍は、9月の自民党総裁選について、「長い歴史を紡いできた日本という『美しい国』を守るためには、一命をも投げ出すという確固たる決意が求められる」と語っている。
この意気は大いに評価できるし、きっと多くの国民からも支持されるであろう。が、人気だけでは選挙には勝てない。人気がないのは論外だが、やはり人気にプラスして、
実績と党の選挙体制が大きく影響する。
その点においては、二階を党務の枢要なポストに登用するのは重要であると思う。

小沢対策だけではなく、郵政造反組で復党を希望している議員の協力を取り付けると
いう点でも、刺客候補擁立の当事者であった二階は適任である。
私は、二階は、選挙実務を取り仕切る幹事長代理のポストに就くのではないかと予想
している。この職であれば、安倍の外交政策をめぐって両者に確執が生じる可能性は
低い。

今、安倍陣営では早くもこんなささやきが聞かれるという。
「中川、二階の『NN』が小沢民主党に勝ち抜くためのキーマンだ」
中川は、森喜朗(元首相・森派会長)、小泉、安倍のいずれとも近い。森内閣では官房長官を務め、小泉内閣の下では国対委員長在職期間最長記録を更新。今は政調会長の要職にある。世代的にもベテランと中堅・若手をつなぐ位置にあるので、その存在価値は高い。
中川幹事長-二階幹事長代理の「NN」で党務と選挙を仕切る。
これしかないのではないか。

なお、加藤や山崎は、もう番外地の住人になりつつある。後は古賀である。この政治家も政権からはるか彼方に飛ばしてほしい。
南京大屠殺遇難同胞紀念館(南京大虐殺記念館)に献花するような人物を、傍に寄せてはならない。

安倍は、自民党総裁に就任した暁には、まず来夏の参議院選挙を念頭においた人事を考えるべきであると思う。

(文中・敬称略)

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政治(国内)」カテゴリの記事

コメント

最近思うんですけど、今回の医療制度改革に対する国民の不満って結構強いんですよね。
医者である私自身が「小泉改革でよかった面もありますが、弱者に対してはこんな仕打ちをするんですよね」と言っています。

療養病棟から追い出されて自宅に帰らざるを得なくなった患者さん御自身・御家族と話すると「こんなのじゃ自宅で面倒見れない!」と怒っています。皆さん小泉政権に対して恨み節を言います。

少なくともこの点を何とかしなければ、来年の参議院選挙は危ないんじゃないかと思っています。

投稿: ぴん | 2006/08/09 18:49

国民医療費が膨脹し、医療保障制度がパンクしそうになっているのですから、政治力で是を抑えようとするのは当然です。

ただ、政治家や官僚が医療現場を知らなさ過ぎる事が、様々な歪みを作ってしまったのではないでしょうか。

私は政治が悪い!小泉改革が悪い!と言う前に医療関係者が医療費を縮小する事に努力するべきだと考えます。
現医療には無駄が多過ぎます。

何がどう無駄なのかを、政治家が国民に示す事も重要だと思います。そうすれば国民も納得するのではないでしょうか。

投稿: オコゼマン | 2006/08/10 07:31

もう政治は次の次のことを見越して動いているんですね 古賀あたりがちゃっかり安部さん支持に回ったのも、そこでまた存在感を出そうとしているんですかね 次の選挙はなんだか厳しいことになりそうですし...安部さんが乗り切ってくれることを願うばかりです。

投稿: ころ | 2006/08/10 08:42

権力闘争の中身を見せられた様で複雑ですね、政策が新しいものを持って居る訳でもない過去の分野に位置していなければいけない人達が安倍人気に同調、政権の中での位置を確保したい意向で協力をする、結果として安倍色が退歩する。
若手が何故、彼等が今の力と政治力を確保しているのかを勉強して彼等の手法の是非を検証し、自分達の力に転換する位の気力を持って欲しいものです。
奇麗事で彼等が今の地位を得たとは思えませんが「汚い」だけでは「汚い」ものを排除出来ない、自分の力と回りの力を集めて初めて自分の意思を発揮出来るのではと気の長い事を考えてします。
どちらにしても来年の参議院選挙、小沢民主党の自滅が自然なのでしょうがマスコミも「小沢」人気を煽り、自民の「独走」を止めるのに必死に成るでしょうから、旧体制を利用したい小沢氏の歯止めには筆者の言われる方法しかないのでしょうね。

小泉政権の医療問題にも触れて居られる「お医者様」が居られますが、「医は仁なり」これが医師の心から離れた弊害、一時期の脱税のランキングには医師が常連として入って居られました、医師会にも医者の使命を教える機構が有っても良いのではと思うことが有ります。私自身も肺がんで片肺切除医療の進歩で救われた人間ですが病院での医師の思考と開業医院の医師の思考に開きが有ると感じて居ました。
医師の養成には能力に加え税金も投じられています、医師会の良識にも期待し、政治との癒着の排除、真の医療とはこんなものだと言える人材が少なく成った事も原因と思いますので、政治に責任を、政治に全てを期待するのはどうかとも思います。

投稿: 猪 | 2006/08/10 09:06

なるほど二階氏の政治力には
瞠目すべきものがあるかもしれない。

しかし東シナ海の日中中間線でのガス田開発問題で、
麻生外務大臣は中国のガス田開発強行に断固対応した。
問題の根源が中国側の独善的な姿勢による開発にあったからである。

それに対し二階氏は
「日本の対応に『こそ』問題がある」
「強硬に対応するなら勝手にやればいい」と。

このような彼の対中態度に対し、
06年5月、自宅に剃刀の刃と書状が送りつけられた。
「自殺勧告状」と「中国に媚びるな」等
二階氏の反日的な行動をなじるものであった。

まるで中共に弱みを握られているような二階氏の振る舞いを
日本国民がよく思うはずが無い。
二階氏には日本国民のために働いてくださいと
お願いするばかりだ。

投稿: docdoc | 2006/08/10 16:11

皆さん、おはようございます。
コメント、ありがとうございます。

二階派のみならず、丹羽・古賀派、そして亀井静香氏がかつてオーナーであった伊吹派まで「安倍支持」を表明しましたね。

これは、旧・実力者たちが自己保身を図っていることと、その裏返しとして、もう派閥の若手をコントロールできるだけの力がなくなっている、ということを意味します。

あの山崎派も、幹部の甘利明氏以下の中堅・若手が早くから「安倍支持」に回り、拓ちゃんは出馬断念に追い込まれました。

この流れを、自民党の衰退ではなく、改革=躍進につなげてほしい、と安倍さんには期待します。

投稿: 坂 眞 | 2006/08/11 09:25

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