反腐敗闘争は単なる権力闘争で終わるのか?
私が、「中国共産党(中共)首脳部が『団派』と『上海閥』に分れ、暗闘を繰り返していることはご存知だろうか?」と書いたのは、昨年の12月26日のエントリーにおいてである。
「団派」とは、胡錦涛総書記(国家主席)に代表される、共産主義青年団(共青団)出身のエリート官僚たちのことであり、「上海閥」は、上海の地方幹部から党総書記・国家主席へと異例の出世を遂げた江沢民に連なる人脈である。
ところで、「団派」と「上海閥」の確執は、取りあえずは「団派」の勝利に終わった。
その第一幕は、一昨年9月に江沢民が党軍委主席を引退し、その跡を胡錦涛が襲ったことで幕を開け、昨年12月の軍の首脳人事刷新で終幕した。
第二幕は、昨年10月の五中全会から始まった。
同会議において採択された「第11次5か年計画(2006~2010年)」は、江沢民時代の「成長優先型発展戦略」や「投資主導型成長」からの訣別を明確にした。
つまり、この時点で、政治、軍事に続いて経済面でも江沢民路線が否定され、胡錦涛が名実ともに主導権を確立したのである。
「第11次5か年計画」は、胡錦涛の主唱する「科学的発展観」に基づいた「調和のとれた社会」の構築をめざしている。その内容は、中国の危機的現状を認識し、その処方箋を指し示していると言ってよい。
ところが、この計画が最初からつまづいているのだ。過剰投資、過剰融資、過剰黒字、過剰成長、この「四つの過剰」は止まる気配がない。民衆による暴動・騒乱も増加の
一途をたどっている。
これは、江沢民時代の「負の遺産」がなせる業でもある。
江沢民が国家主席に就任した1993年から引退した2003年までの10年間で、中国の
国内総生産(GDP)は実に3.7倍以上になった。が、民衆による暴動・騒乱も毎年平均 17%の割合で増え続け、1994年は約1万件だったのが昨年は8万7,000件にまで達している。
中国当局は、「その発生原因の99%は公権力による庶民の権利侵害によるものである」としている。つまり、江沢民の時代は経済も大きく成長したが、共産党幹部や政府官僚による職権乱用や不正もそれ以上に深刻化したということだ。
そして、その傾向は、胡錦涛の時代になっても変わらない。
そこで胡錦涛は、ついに江沢民時代の「負の遺産」を一掃する動きを始めたようだ。
いわゆる「反腐敗闘争」、つまり腐敗・堕落した共産党幹部や政府官僚の弾劾・追放である。
これは「団派」と「上海閥」の権力闘争の気配も見せ始めている。
まずは、以下の讀賣新聞の記事を読んでほしい。
(注)第11次5か年計画の内容は以下のとおりである。
①エネルギーの消費効率を改善する
②リサイクル経済を発展させる
③環境問題を解決する
④農村部の所得を引き上げ、三農問題(農業・農村・農民)を解決する
⑤地域間・階層間における不均衡を是正する
⑥経済成長の牽引役を投資から消費へシフトさせる
⑦期間中の平均成長率を7.5%とし、盲目的な成長率の追求を禁止する
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↓
【香港=吉田健一】香港の人権団体「中国人権民主化運動ニュースセンター」は7日、中国の大手重電メーカー「上海電気」の幹部に巨額の不正融資疑惑が浮上し、この
幹部が公安当局の調査を受けたと伝えた。
今回の疑惑には中国共産党内序列6位の黄菊副首相(党政治局常務委員)の妻が
関与した疑いがあるという。
同センターによると、不正融資疑惑が浮上したのは、企業家で同社副会長も兼ねる
張栄坤氏。張氏は上海と杭州を結ぶ高速道路の経営権購入の際、上海市社会
保障局から32億元(約464億円)に上る融資を不正に受けた疑いが出ている。
黄副首相夫人の余慧文・上海慈善基金会副会長が不正融資を仲介した疑いがあり、党中央規律検査委員会が調べているという。
黄副首相は上海市トップの同市党委書記などを務めた、江沢民前総書記に近い「上海閥」の指導者。今回の疑惑調査については、「胡錦濤総書記が進める反腐敗闘争の
一環という側面に加えて、来年の党大会を前に江氏の影響力をそぐ狙いが胡錦濤氏側にあるのではないか」(香港誌編集幹部)との見方が出ている。
同センターはまた、韓国璋・同社副総裁も不正流用疑惑などで党規律検査委の調査を受けたとも伝えた。
中国の大手重電で不正融資疑惑、副首相の妻関与の疑い
(2006年8月7日 読売新聞)
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政治局常務委員と言えば、胡錦涛以下8名しかいない。いわゆる中共の中枢部を形成する大幹部である。
黄菊は、この政治局常務委員であり、党内序列第6位。国務院(内閣)の副総理(No.2)であり、「上海閥」のリーダー格でもある。
その周辺に、捜査の手が伸び始めた。
これは、江沢民時代の高度成長に乗じて権力を肥大化させ、富を私物化してきた者たちとの闘争の始まりを告げるものではないか。
胡錦涛は、元々人脈的には「民主化の旗手」と言われた故・胡耀邦元総書記に連なる。胡耀邦は「百花斉放・百家争鳴」(双百)を再提唱して言論の自由化を推進した。が、「ブルジョア自由化に寛容すぎる」と保守派や長老グループから批判され、1987年に失脚する。
この、清廉であったとされる胡耀邦と経歴が重なる胡錦涛も、今のところは不正・腐敗とは無縁とされる(実際は分らないが、本当らしい。いわゆる「清官」)。
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実は、今回の疑惑が発覚する前に、一つの重要な事件があった。
先月初め、北京市の副市長である劉志華が「生活の腐敗と堕落」を理由に、その職を解任されたのである。この解任劇は、五輪施設周辺の土地競売をめぐる不正疑惑に
絡んだものであるとされる。
が、注目すべきなのは、この劉志華が党内序列第4位の賈慶林・全国政治協商会議
主席(政治局常務委員)が北京市の共産党委員会書記時代に市政府秘書長、副市長を務めていたということだ。
また、賈慶林が元省長を務めていた福建省でも、同時期に複数の省政府高官が汚職の疑いで、相次いで取り調べを受けている。
劉志華の解任は胡錦涛が直接指示したとされ、事前に劉淇・北京市共産党委員会
書記や王岐山・北京市長らの市最高幹部には相談しなかったという。そして、劉志華の
後任には胡錦涛直系の吉林を充てた。
つまり、胡錦涛が先頭に立って、党内序列第4位である賈慶林の側近(劉志華)を処分したのだ。しかも賈慶林は、黄菊と同じく「上海閥」のリーダー格の一人である。
要するに、今回の一連の事件は、いわゆる「反腐敗闘争」の一環であるとともに、「上海閥」=党内序列第4位の賈慶林と同第6位の黄菊を追い落とす動きでもある。
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胡錦涛は、これによって、共産党内の権力闘争に決着をつけるとともに、人民大衆に
対しては、共産党や政府の中枢を占める幹部であっても、その不正や腐敗を許さないと
いう姿勢をアピールしたいのだと思う。
しかし、党や政府の腐敗・堕落は中央より地方の方がより深刻であり、それは社会の隅々にまで浸透している。党・政府・人民代表者会議(議会)・政治協商会議(統一戦線)・司法・警察、ありとあらゆるところで不正がまかり通っている。
結局は、胡錦涛の掲げる「反腐敗闘争」も、党中央の権力闘争と人民大衆に対するプロパガンダに終わるのではないか。
今回の「反腐敗闘争」と権力闘争の結末に注目したい。
それによって、中共体制の今後が、よりクリアーになる。崩壊が近いのか、まだまだ
延命できるのかという・・・
※ちなみに、解任された劉志華・前副市長は17人の愛人をかかえ、毎日フカヒレアワビを食べる金満生活を満喫していたらしい(笑)
参照1:中国で汚職高官取り締まり強化 胡主席指示、権力闘争の序章?
(2006年7月11日 産経新聞)
参照2:不正融資疑惑 中国 黄副首相家族を調査か 上海閥排除狙いも
(2006年7月24日 産経新聞)
参照3:第17回党大会前のちっさな花火!
(2006/07/08 没原稿収容)
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実は「超」のつく裸官(汚職官僚)だった。(2012.10.29)
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コメント
>反腐敗闘争は単なる権力闘争で終わるのか?
と言うより、反腐敗闘争は最初から権力闘争そのものです。権力闘争に負けた者が腐敗官僚として断罪されるのです。どうせ勝った方だって腐敗してるんですから、問題となるのは腐敗の防止ではなく権力闘争の勝ち負けだけです。だから彼らは徒党を組んで自己保身を計ることに必死なんですよ。
共産党中央の“華やかな”権力闘争だけでなく地方の名も知れぬ市や県の人民政府の○○局や○○処もお互いに権力闘争しています。人民政府内のそれぞれの部署は利益誘導や権益確保の拠点であると同時に、腐敗官僚として打倒されないための陣地のようなものです。そして、できる限り肩書きに“長”のつく連中とのつながりを確保しておくことが重要です。だから彼らにとって贈収賄は“犯罪”じゃありません。それなくしては生きていけない“呼吸”のようなものなんです。
私も時には彼ら“呼吸”を助けてあげたりするんですよ。内容は小さなことですが、仕事だからと言って正当化することはできません。つき合う相手を間違えると人間はダメになっていくという典型です。中共の官僚どもとつき合うということは、つまり、そういうことなんです。
投稿: duzhe | 2006/08/08 22:58
坂さんの今日のブログを読んで、昭和61年の胡耀邦総書記閣下宛中曽根書簡を思い出してしまいました。
改革派で眞の友人だった胡氏を思んばかったことが結果として解決済みの筈の「靖国問題」を今日まで引きずってしいました。
団対上海の暗闘に我が国は賢明に対処しなければなりませんが、山拓、古賀、加藤、小澤にはsophisticateな思考力がありませんし、安倍さんに期待するしかないのでしょうか。
麻生氏もこの期に及んでかえって混乱させるような一石を投じてくれるし…。
投稿: H.H生 | 2006/08/09 03:33
中共は、1982年憲法に記された「4つの基本原則」を
堅持する国である。
①社会主義への道
②中国共産党の指導
③人民民主主義独裁
④マルクス・レーニン主義の固持
この原則を憲法に記載させたのは鄧小平である。
しかし彼が始めた改革開放政策は、
資本主義への道を開き
共産党の指導を無効にし、
人民に人民民主主義独裁に対する疑問を抱かせ
マルクス・レーニン主義を無力化した。
鄧小平路線を忠実に継承した江沢民。
江沢民が後継者に選んだ胡錦涛がはたして鄧路線を
継承するかが問題になる。
それは無原則、混乱への道でしかない。
胡錦涛が共産主義者であれば鄧小平が定めた
4原則への回帰を画策するに違いない。
4原則を立てに党幹部を粛清する。
過去の例どおり粛清の理由は後ででっち上げる。
そうするしか権力闘争は勝ち抜けない。
権力を奪った後、もし本当に4原則に回帰するようなことになれば中共は大混乱となる。
つまり胡錦涛にとって現状は引くも地獄進むも地獄である。
投稿: docdoc | 2006/08/09 11:44
昨年のエントリーから8ヶ月の間の動向は、その運動の名の下、追い落としのためにその対象の側近の排除を進めている(外堀を埋めるという感覚でしょうか?)。
中国の悠然たる時間の流れというものを今回当てはめることを躊躇するほど、国(体制)としては病んでいます(止んでいます)というか、国や体制という概念が"経済人"には希薄だから、"経済交流"の際に、誰を交渉の相手に選ぶかから熟慮しなければならないほどの乱れようというのは現地で仕事されている人なら短期長期を問わず目にし耳にすることと思います。
その悠然たる歴史とともに長い時間をかけて熟成され、社会生活の中に取り入れられた慣習を取り除くことはできないことのようですので、拝金主義・贈収賄・ナルシスト的発想等々は今後も脈々と彼らの中に生き続けるのでしょう。
やもすると指導部はもう間に合わないことを前提に、軟着陸する「程度とポイントと状況」を都合のよい方向に持っていく手段のひとつが、突っ張るだけ突っ張る対日本外交なのかもしれませんが、それがわかっていて「大局的見地」から軟弱になる必要性もないのではないかと思います。
ものを頼む時はまず頼む方が誠意を見せるのが普通で、それは彼らの歪んだ慣習にもまだ確かに存在しています(変節もとてつもなく迅速です)。
軟弱といえば、昔、江主席が記者会見で切れて、「You Are Too Naive」という英語を連発してどこかに行っちゃったのを思い出しましたし、フカヒレアワビはいらないけど、破廉恥にも「17人はいいなぁ。次はそれがいいなぁ」と率直に思いました。
敬具
投稿: 螺旋丸 | 2006/08/09 12:13
>HH生
>改革派で眞の友人だった胡氏を思んばかったことが結果として解決済みの筈の「靖国問題」を今日まで引きずってしいました。
確かに中曽根は「靖国問題を今日まで引きずって」しまった張本人の一人であろうし、いまなお、いわゆる「分祀」を主張して事態の混乱に拍車をかけている。さらに読売社主の渡辺恒雄と組んで陰で「策謀?」をめぐらしているのかな??
今朝の読売新聞一面トップ記事は愛読者?のひいき目で見ても、「報道」というよりは印象操作を駆使した世論調査結果を用いた「プロパガンダ」にしか読めませんでしたね・・・読売新聞もここまでやるかのか?という想いから一読者として読売の読者室(03-3246-5858)に苦言を呈しましたが・・・虚しさだけが残りましたね・・・・そこで、読売新聞に「印象操作による捏造」だと思うよ!と苦言を呈したが、その一点は
>本社世論調査「分祀」62%賛成
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060808it14.htm
である・・・読売新聞はいわゆる「A級戦犯」のいわゆる「分祀」が可能だという前提で質問しているようだが?靖国神社は「分祀」などできない!という見解を明らかにしている・・にも拘わらず、あたかも「分祀」が可能であるかのように「賛成か?」、「反対か?」を質問すれば、「分祀できればそれに越したことがない」として、「賛成の数」が多くなるのは当然のこと!!これを「印象操作による捏造」と言わずして何というのか!?と、・・・・違いますかね??
神道では「分祀」という概念があるのか?確かに「合祀」は、それまでに祀られた御祭神を恐れながらも井戸水に例えるなら、その井戸水にコップの水を新たな御祭神として注ぐようなもの・・・全て御祭神が混ぜ合わされた井戸水から最後に注いだコップの水をどうやって汲み分けるのか?ということ・・・これが靖国神社が言う「合祀」であり、いわゆる「分祀」など出来ないという理由でしょう・・・それがおかしいか?どうかを議論しても始まらない、それが靖国神社という宗教・・・
まぁ、いずれにしろ、今朝の読売新聞を見て、もっとも歓喜?しているのは中国政府でしょうね・・・最後に読売新聞の読者室に伝えたことは、「中国が反発するから」ということで「靖国参拝」が混乱と言うか、翻弄されていると思うが、読売新聞は「中国が首相の靖国参拝に反発するのは理解できる」というスタンスなんだね?・・・明快な返答は無かったが、多分、今朝のプロパガンダは社主渡部恒雄の意向には逆らえないという読売新聞の社内事情がもたらしたものなんだろう・・・渡辺恒雄はThe New York Timesのインタビューで、「私は、私が日本の全てを変えることができると思う」と言い放ったからね・・・
http://banmakoto.air-nifty.com/blues/2006/02/post_82ed.html
投稿: 疑問符 | 2006/08/09 12:42
>"I think I can change all of Japan," the SOB said.
へっ、バロンが聞いてあきれらあ。自分の子飼いの何とかジャイアンツさえ立て直せないのに。Onishiもオニシャイだ、日本語話せるのかね。
投稿: H.H生 | 2006/08/09 16:06
また、あの中共からの似非台湾人が・・・
【台北=石井利尚】台湾の先住民の高金素梅・立法委員(国会議員)は9日、台北で記者会見し、元日本兵の台湾先住民の遺族が、靖国神社に合祀(ごうし)されている元兵士の合祀取り消しを求める訴訟を大阪地裁に起こすため訪日することを明らかにした。
投稿: 正成 | 2006/08/10 01:09
皆さん、おはようございます。
コメント、ありがとうございます。
>つまり胡錦涛にとって現状は引くも地獄進むも地獄である。
ということ
>やもすると指導部はもう間に合わないことを前提に、軟着陸する「程度とポイントと状況」を都合のよい方向に持っていく手段のひとつが、突っ張るだけ突っ張る対日本外交なのかもしれません
であるのは、間違いないでしょう。
バブルは、北京オリンピックでさらに拡大し、2010年の上海万博までは続くかもしれませんが、そこが大きなターニングポイントになると思います。
経済が一気に失速し、目先の目標を失った国家は、混沌の中をさまよい始める。
今回の「反腐敗闘争」で、胡錦涛がどこまで権力を固めることができるのか、軟着陸に向けた具体的行動を起こせるのか、ここがイチバンの注目点だと思っています。
それができなければ、もう体制崩壊しかないでしょう。
投稿: 坂 眞 | 2006/08/11 09:13