昨日のエントリー「谷垣!Who? 」で書いたように、谷垣禎一財務相が、靖国参拝の是非を自民等総裁選の争点として持ち出してきた。
私は、いわゆる「富田メモ」に関しては、推測で記事を書くのはもうやめると書いた。
私は、あのメモは徳川義寛侍従長の発言だと確信しているが、それは状況証拠の集積の結果であり、結局は水掛け論に陥るからだ。
が、谷垣氏が靖国問題を争点として持ち出してきた以上、少しばかり言っておかねば
ならない事がある。
谷垣氏が、総裁選に靖国問題を争点として持ち出してきたのは、不出馬を表明した
福田康夫支持勢力を取り込むという狙いがある。
が、それだけではない。
世論の靖国問題に対する風向きが変わったと判断したことも大きいと思う。その世論の風向きとは、2006年7月25日付朝日新聞の「全国世論調査(電話)記事」の内容である。
朝日新聞の世論調査は、次のように書いている。
①次の首相の靖国神社参拝の賛否を尋ねたところ、反対が60%を占め、賛成の20%を大きく上回った。
②今年1月の調査では反対46%、賛成28%で、今回、反対が大幅に増えた。
③小泉首相が9月末までの任期中に参拝することについても反対が57%にのぼり、
賛成29%のほぼ2倍だった。
④昭和天皇が靖国神社へのA級戦犯合祀(ごうし)に不快感を示していた発言メモが
明らかになり、首相参拝の是非を考える上で、この発言を「重視する」と答えた人は6割を超えた。
この世論の結果は、完全にメディアによる「ねつ造報道」がもたらしたものである。それに谷垣氏が乗った。まさに「富田メモ」の政治利用である。
朝日新聞は22日の天声人語で、「昭和天皇が、靖国神社にA級戦犯が合祀(ごうし)
されたことに不快感を示した発言のメモ」について次のように書いている。
(前略)「気をつけたいのは、このメモの扱い方だ」(中略)「宮内庁長官を介して間接的にもたらされた幾つかの言葉から、その像が一気にくっきりと見えてくるものではあるまい。メモは一つの史料として冷静に受け止めたい。政治などの場で過大に扱うのも控えた方がいい」(後略)と・・・
にもかかわらず、その直後(22、23の両日)に上記の世論調査を行い、政治に影響を
与えているのだ。
この「富田メモ」の信憑性に関しては、いわゆる「識者」と言われる者たちの見解も割れている。
■肯定派の意見。
「あり合わせのメモが張り付けられていて、昭和天皇の言葉をその場で何かに書き付けた臨場感が感じられた。内容はかなり信頼できると思う(作家の半藤一利氏)」
(毎日新聞)
「前々から富田元長官は律義な人と承知しており、実際に読んだ日記やメモは信頼性が高く、昭和天皇の言葉を書き留めたものと考えていい(秦郁彦・日大講師)」
(讀賣新聞)
■慎重派の意見
「メモが昭和天皇の発言を正確に記録したものだとすれば、慎重な検討が必要だ。例えば、松岡、白鳥までもが、との趣旨の記述は、いわゆるA級戦犯の合祀に批判的だったのか、一部の合祀が不快だったのか、にわかに判断できない。
昭和天皇が開戦の決定を認めたことについて申し訳ない気持ちを持たれていた可能性もある。短絡的に不快感(が原因)ととらえるのではなく、すでに公刊されている故・
徳川義寛侍従長の回想記と合わせ、再考する必要がある(所功・京都産業大教授)」
(讀賣新聞)
■懐疑派の意見
「『米国より見れば犯罪人ならんも、我が国にとりては功労者なり』と語っておられた
昭和天皇が、たとえ私的な会話であれ、果たして『A級』などといった乱暴ないい方を
されるであろうかとの疑念は拭いきれない(百地章・日大教授)」
(産経新聞【正論】)
お読みになればお分かりのとおり、肯定派、慎重派、懐疑派ともに「思う」「考えていい」「判断できない」「拭いきれない」という言い回しであり、誰もが個人的な「感想」、もしくは「思い」の域を出ていない。
要するに、いずれの発言も、それを裏付けるだけの確証がないのだ。
にもかかわらず朝日新聞は、「メモは、天皇が闘病中の88年、最後の誕生日会見直後の天皇とのやりとりだった」と断定し、写真付きで大々的に報じた(2006/07/21 昭和天皇の苦い思い、浮き彫りに)。
根拠は、今は亡き徳川元侍従長の昔話だけである。
だから、私も状況証拠を集積して「メモはねつ造である」と断じた。確証もないのに、
「メモは天皇発言である」と断定的に報道するメディアに、反証を挙げて対抗するためだ。
東条元首相の孫である由布子さんは、23日のテレビで次のように証言している。
「処刑後、毎年お使いの方がお見えくださって、ご下賜の品を頂戴していた。『東條の
家族は元気にしているだろうか』というお伺いを持って来てくださっている。そういう陛下が、あのようなことを仰るとはとても思えない」
これはナマの証言である。
この証言以外にも、、メモが昭和天皇の発言とは思えないという状況証拠は、過去の
エントリーで書いたようにたくさんあるのだ。
要するに「(故・富田朝彦宮内庁長官のメモだけでは)昭和天皇が本当に不快感を示すご発言をしたかどうかは、誰も分からないだろう」という政府筋の判断が、今のところもっとも正しいのである。
にもかかわらず、メディアの「ねつ造」報道によって、「公になった言葉ではなく、非公式な会話メモで判断するのは、昭和天皇の『政治利用』につながりかねない」(百地章・
日大教授)」(産経新聞)という危惧が現実のものになっていく。
しかも、朝日新聞が煽っている。「気をつけたいのは、このメモの扱い方だ」「メモは一つの史料として冷静に受け止めたい。政治などの場で過大に扱うのも控えた方がいい」と天下の(?)「天声人語」で主張していながらだ!!!
①「昭和天皇は本当に偉い方だったんだなあ。大御心(おおみこころ)だなあ」。民主党の小沢代表は20日、記者団にこう語った。小沢氏は最近でも「戦死ではない人たちが靖国神社にまつられること自体が間違いだ。天皇も堂々と参拝できるような本来の靖国神社にすべきだ」との持論を繰り返していた。
②超党派の国会議員でつくる「国立追悼施設を考える会」の呼びかけ人でもある民主党の鳩山由紀夫幹事長も「A級戦犯合祀(ごうし)が理由で天皇陛下が参拝されていないことが、証拠として示された意義は大きい」と語った。小泉首相に対しては「自分だけの意思で軽々に(参拝する)というのは許されない。この事実を重く受け止めて頂きたい」とくぎを刺した。
③共産党の志位委員長は「『靖国史観』派のシナリオが破綻(はたん)し、参拝を繰り
返してきた小泉首相の主張に道理がないことを浮き彫りにするものだ。首相の参拝中止を改めて強く求める」との談話を発表した。
④社民党の又市征治幹事長も「昭和天皇の意思が資料で裏付けられた。戦争の反省と平和の希求という気持ちが表れた言葉だと思う。政府・与党がどう受け止めるのか
注視したい」との談話を出した。
以上は、「民主・小沢代表「昭和天皇は偉い方」 靖国発言メモで」という朝日新聞の
記事(2006/07/21)からの引用である。
⑤日本遺族会会長である自民党の古賀誠元幹事長は25日、東京都内で講演し、靖国神社のA級戦犯合祀(ごうし)に昭和天皇が不快感を示した発言メモについて「お言葉に涙の出る思いがした。この思いを、私たち遺族は最も大切にし、最も重いものとして
受け止めたい」と述べ、靖国神社にA級戦犯の自発的な分祀(ぶんし)を促す決意を
改めて表明した。
古賀氏は講演で「戦没者ではない英霊が合祀されたことで、皇族がお参りを遠慮され、日中の問題がここまで先鋭化してくる。そういうことを無念の死を遂げた英霊がどう見ているだろうか」と指摘。「遺族会の原点に返って、国民がわだかまりなくお参りし、皇室もお参りできる、英霊に思いを寄せた対応こそしていかなければならない」と強調した。
これも「古賀氏、A級戦犯の分祀に強い意欲」(2006/07/25)という朝日新聞の記事である。
一方で「政治などの場で過大に扱うのも控えた方がいい」と言いながら、他方で首相の靖国参拝反対派の政治的発言を次々に報道し、世論調査まで行って「紙上の世論作り」をする。しかも、すべてが「メモは昭和天皇の発言」という前提に立ったものだ。
本当に、この新聞は「偽善のかたまり」だ。
メディアや野党の諸君に訊きたい。昭和48年の増原恵吉防衛庁長官の辞任は何だったのかと???
増原防衛長官は、あるとき内奏をした。
内奏とは、天皇に対して、非公式に経過報告や進捗状況を申し上げることをいう。現憲法の下では、国務大臣は天皇に対して責任を負わないから、この内奏はしなくてもよい。
が、歴代閣僚はそれほど頻度は多くないにしても、この内奏を行っていた。いわば慣例として行われていたのである。
ところが、この増原防衛長官は、内奏の際に昭和天皇から受けたお言葉を、ついうっかりして漏らしてしまったのである。
「防衛問題はむずかしいだろうが、国の守りは大事なので、旧軍の悪いことは真似せず、いいところは取入れてしっかりやってほしい」という激励に感激して、記者団の前でこのお言葉を明らかにしてしまったのだ。
これに噛みついたのが野党の社会党(現・社民党)や共産党、及び朝日新聞を始めと
するメディアであった。
増原防衛長官の発言は「天皇を政治利用するもの」というのが、その理由だった。この問題は、一大政治問題と化し、当時の田中角栄内閣は、天皇の激励はなかったことにして、増原防衛長官は一身上の都合で辞職ということにした。
当時の野党やメディアが増原批判の根拠にしたのは憲法第4条である。
憲法第4条1項は、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と定めている。
国事に関する行為は第7条で定められているが、これも条文の冒頭に「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」と書かれている。
つまり、天皇が政治に関与できるのは「国事行為」のみであり、それさえ「内閣の助言と承認」がなければ許されない。
要するに天皇は政治に関与してはならないのに、閣僚が天皇から聞いた政治に絡む
発言を公表して、利用しようとしたとして増原防衛長官は猛烈なバッシングを受けたのである。
そして結果は閣僚辞任。
今回の「冨田メモ」を口にする政治家たちよ!その政治家たちを煽り、逐一報道するメディアたちよ!君らのやっていることは「意図的」である分だけ、かつての増原防衛長官の発言よりず~っと罪が重いのではないか???
もし、「富田メモ」が本当に昭和天皇の発言であるのならば、小泉純一郎首相の靖国
参拝や「A級戦犯」の分祀論に言及するのではなく、昭和天皇の発言をそういう問題に絡めるのは「天皇の政治利用」であり、憲法違反であると主張するのが「筋」というものではないのか???
あるときは、天皇の個人的発言を「政治利用」したと非難して閣僚辞任にまで追い込みあるときは、確たる証拠もないのに「天皇の発言である」と断定して、今度は逆の立場から「政治利用」する。
こんな無節操が許されるのか???しかも、昭和天皇が絡んでいるのである。
小沢!鳩山!古賀!君たちは天皇制を肯定する政治家ではないのか???
なぜ、共産党の志位や社民党の又市のような天皇制否定論者と同じレベルに立つのだ???
もう、こういう連中は理解できない!!!
なお、増原防衛長官の件についての昭和天皇の落胆は大きく、宮内庁長官と入江
相政侍従長に対して、「もう『はりぼて』にでもならなければ」と語っていたという。
参照:第六十六代:第二次田中角栄内閣
【追記】
もう朝日新聞、反靖国でフル・スロットル、暴走中です。
A級戦犯、広田元首相の遺族 「靖国合祀合意してない」 (2006/07/27)
靖国合祀、国主導の原案 「神社が決定」に変更 (2006/07/29)
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